「海智、相談に乗ってほしいの」

こんなことは高校の頃何度かあった。一夏は人好きのする性格で友人もたくさんいたくせに、何故か何か問題があるとすぐ海智に相談してきた。だから彼はこういう彼女の姿に見慣れているのだが、目下の彼女の表情には以前とは違う切迫感があった。

「昨夜は大変だったね」

「ええ、見に来てくれたのね」

「どうなったんだ? あれから」

「家族を呼んで両親が来たわ。お母さんが半狂乱になってね。『息子を返してください』って蒼先生に掴みかかったの。お父さんは『警察に連絡しないでいいのか』とか『裁判を起こす』とか怒鳴ってね。でも先生が冷静に対応したから、解剖もせずに御遺体を引き取ってもらったわ。でも訴訟にはなるだろうからできるだけ示談で済ませたいと先生は言っていたわ」

一夏にはあれだけ激昂して暴言を吐いたくせに、患者や家族には冷静に対応できるのか。それなら職員に対してももう少し冷静に対応しろよと海智は思った。

「蒼に怒鳴られていたようだけど、気にするなよ。お前のせいじゃないよ」

「ああ、そうか。海智は蒼先生と同級生だったわね」

「中学の頃は親友のつもりだったんだけどね。高校になってから人が変わってしまった。話もしなくなったんだ。だけどあそこまでひどい人間だったとは思わなかったよ」

「それでね、海智、相談があるの」

はて、と海智は訝しんだ。彼はてっきり相談とは昨夜蒼に叱責されたことだとばかり思い込んでいた。