「分かりません。一時に部屋を巡回した時はちゃんと気管チューブに呼吸回路は繋がれていました。胸部の上下運動も確認していますし、聴診でも呼吸音が聞こえました。

人工呼吸器の低圧アラームも一度も鳴っていません。ベッドサイドモニターも心電図、血圧、酸素飽和度全て異常ありませんでした。念のため、気管チューブと呼吸回路の接続を確認しましたが、しっかり接続されていました。

それからナースステーションに戻って、セントラルモニターでもずっと心電図もバイタルサインも何も異常がなかったのに、二時頃になって急にモニターのアラームが鳴り始めて、心電図がフラットになっていたんです。血圧も酸素飽和度もエラーになっていました。

慌てて先生を呼んで、部屋に行ったら、気管チューブから呼吸回路が外れていたんです。その時にはもう自発呼吸もなく、頸動脈も脈拍を触知できなくて、心マッサージを始めたんです」

今にも泣き出しそうな震える声で答えたのは一夏だと思われた。

「じゃあ、何で外れたんだ! 呼吸回路が外れたらまず人工呼吸器の低圧アラームが鳴ったはずだ。聞こえなかったのか」

「全く聞こえませんでした。それに、見てください。いつの間にか人工呼吸器の電源がオフになっているんです」

「そんな馬鹿なことがあるか! もし、この病院で医療事故が起きたなんて報道されたら大変なことになる。遺族への賠償金も払わないといけない。お前も覚悟しとけよ!」

暴言を吐くと男はドアを勢いよく開けて廊下へ出てきた。海智と金清は隠れる暇もなく、その場にピンと背筋を正して棒立ちになった。しかし、擦れ違う医師の顔を見た瞬間海智はあっと声を上げた。

「蒼・・・・・・」

名前を呼ばれて彼は振り返り、海智の顔を冷たい視線でしばらく見つめたが、何も言わず再び廊下をそのまま歩いて行った。次に、涙を流しながら一夏が部屋から出てきた。海智の顔を見て驚いたようだったが、「ごめん」と一言だけ言って顔を伏せてその場を走り去った。

  

【前回の記事を読む】入院初日の夜、男の怒号が病室の中まで響き渡る。旧知の仲の看護師のため、迷惑は承知の上で禍患を覗いてやろうという気になった。

次回更新は1月5日(日)、11時の予定です。

  

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