「次に瑞ゑのことだが救出は姫付きの川井五兵衛忠兼に命ぜよ。発覚せぬよう慎重にことを運ぶようにと申せ」
「はっ。近いうちに正月の祝いの件で五兵衛が来ることになっておりますのでその折に伝えておきます」
和田安房が請け負った。
「儂と中務が上洛する時は三百ほどを率いてゆくつもりでいるが水戸城下と府中城下を通行する際には城の者に油断させるようなるべく派手にゆっくりと行進して太田不在を印象付けようと思う」
と義宣が言うと今まで黙っていた義重が満を持していたように付け加えた。
「上洛には北又七郎[義憲]、南左衛門[義種]、石塚源一郎[義辰]、小場六郎[義成]も同行させるが良かろう。これからは京へ上る機会も多くなる故、京のしきたりや宮中、貴族の習わしなど見聞きしてくるのものちのちのためになるものだ」
「そのように大勢で京に上ってしまっては江戸、府中の仕置きに支障はありませんか?」
「なんの、江戸但馬や多気(たげ)[大掾清幹]など物の数ではないわ」
義重はあっさりと言ってのけた。
「あっ、余計なことを申し上げました。上洛の件は仰せの通りに致します」
百戦錬磨の父の言うことに義宣はただ頷(うなず)くほかなかった。
「兵庫、忍びからの報告は上がっているのか?」
義宣は話の方向を変えた。
「はっ。逐一上がってきていますが今の所、別段変わった動きはありませぬ」
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