壱の章 臣従
水戸城攻撃
「江戸と大掾だけでなく南方や額田の様子も探っていような?」
「そればかりでなく会津の蒲生や米沢の伊達にも探りを入れております」
忍びの管理については兵庫と中務が担っている。
「そうか。今後は江戸の徳川や京、大坂にも放って色々な情報を集めねばならぬな。この仕置きが終わったら組織の改革もせねばならぬ……。あっ、あらぬ方向に話が逸れた」
義宣は小田原から帰国してズ~ッと考えてきたことを口にしてしまった恥ずかしさに少し、はにかみながら話を元に戻した。
「江戸、大掾両家の重臣の幾人かを事前に調略しておかねばならぬが、こちらはどうだ? 内通の褒美は今の禄高に上乗せして召し抱かえるという条件を付けるが……どうであろうか?」
「某に当てがあり申す。お任せください」小貫佐渡がこの件を引き取った。
「さて、出陣の日を決めねばこれからの動きようがないのぉ」
和田安房が懐から暦を取り出しながら発言した。字がよく見えないのかしばらく暦を眼の前で近づけたり離したりしていたがやがて額に八の字を寄せながら暦で吉凶を占った。
「御屋形様方が出立されるのは西に向かってゆくとなると……日が良いのは……十一月二十日が吉日となります。出陣日はと……えー……十二月の……十九日が吉兆となりますな」
安房の一声で両方の日付が決まった。