披露宴は立食形式だから食べなくても目立たないので、あまり食べないつもりで来たのに、この日は会場に並ぶ料理が宝石のように輝いて見える。
もう「食べない」ことにうんざりして、「今日は何を食べてもいい」と自分に許可した。
そもそも誰からも言われるように、やっぱりこれでは痩せすぎていると自分でも思うようになっていた。
だからちょっとくらい食べ過ぎたって構わない。
それは初めて自分に許した甘えであり、油断でもあった。
栞は宴会場のテーブルに並べられた料理を眺め、取り皿を持ちサーバーを手にした。
冷製のオードブルはあっさりとしたものが多いので興味はない。魚のカルパッチョもスモークサーモンのサラダも今日は食べたいとは思わないが、その先にずらりと並ぶ湯気の上がる温製の料理は、栞が食べたいものばかりだ。もう葛藤はなく、食べたいと思うものを全部皿に載せていく。
オマール海老のテミドールはたっぷりとチーズがかかり、こんがりと黄金色に焼けている。豚肩肉のローストは香草と肉の脂の良い香りがして、傍らに粒マスタードソースとエシャロットソースの二種類のソースポットが用意されている。牛フィレ肉のパイ包み焼きもある。パイはバターが多く使われているので、もう長いこと栞は口にしていない。
ローストビーフはシェフがその場で切り分けてサーヴィスしている。ふかふかに焼きあがったローストビーフにナイフが入ると、淡いピンク色の肉の断面が現れた。シェフは肉に手早くグレイビーソースをかけ、付け合わせの野菜を添えてクレソンを飾ると、うやうやしく栞に皿を差し出した。
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