『「ほんとうに田舎はいいですよ!」トムは本気でそう言った。「ぼくが思うに、イタリアはヨーロッパでいちばん美しい国です」』(本書二八七頁)
イタリアでルネサンス文化を体感したリプリーはその後ギリシャへ向かう。彼はルネサンス時代の人々さながらに、古代ギリシャへの回帰を目指したのだろうか。ギリシャへの旅を想像しながらリプリーはこうつぶやいた。
『ヴェネツィアからアドリア海をくだって、イオニア海へ入り、クレタ島へ向かうのだ。(中略)六月。六月(ジューン)、なんと甘味でやわらかな言葉だろう。澄みきっていて、気怠(けだる)くて、太陽がいっぱい(原文full of sunshine―引用者註)だ!』(本書三三九頁)
どうやら『太陽がいっぱい』というタイトルは、映画のタイトル由来であることはその通りだとしても、“Plein Soleil”というタイトルこそが、原作の“full of sunshine”からとられていたのかもしれない。
近代に建国されたアメリカに古代や中世の歴史はない。アメリカ生まれのリプリーにとって、ギリシャやイタリアは歴史を学ぶ場所でもあった。
注1)C・ライト・ミルズ『ホワイト・カラー―中流階級の生活探求―』杉政孝訳、東京創元社(一九七一)。五四頁、三三七︲三三八頁。
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