七月三十一日には水山市恒例の花火大会がある。海智も幼い頃は両親に連れられて海岸によく見に行ったものである。花火は海上に漕ぎ出した船の上から打ち上げられる。この病室からは海が見えるので、今年は意外にも特等席というわけである。芋の子を洗うような人混みの中になど行きたくないから勿怪の幸いだと彼は思った。
「全部あいつらのせいよ。きっと罰が当たったんだわ」
一夏は斜め下の宙を睨みつけるような感じで唸るような低い声で呟いた。彼女が何を言っているのか海智には皆目見当がつかなかった。
「知ってるでしょ、高橋、石川、中村の三人組を。あいつらに虐められて梨杏は死んだのよ。昨日その三人が交通事故を起こしてうちに運ばれたの。中村は頭部打撲で意識不明の重体、石川はハンドル外傷で心タンポナーデ、高橋は頚損で四肢麻痺。いい気味よ。
私、今日の夜勤なんだけど早目に病院に来たら、坊ちゃん先生から中村大聖を救急病棟から四階病棟に上げるのを手伝ってくれって言われて、その時初めて知ったの。さっき済ませたところよ。石川と高橋も昨日この病棟に入っている。
嫌な奴ばかりこの病棟に入院してきて、あんな連中の看護をしないといけないのかと思ってむしゃくしゃしていたら、海智が入院しているのに気付いて、それで今来たところなの」
あまりに突然の話で海智は茫然としていた。確かに昨日のニュースで三人の若者が信号無視で大事故を起こしたというのは聞いていた。馬鹿な連中だと思っていたが、まさかそれがあの三人だったとは思わなかった。