眠れる森の復讐鬼
「容体はどうなんだい?」
「ずっと眠っているわ。あれからずっと」
「全身火傷なんだろう? どんな状態?」
「顔と全身が包帯でぐるぐる巻きになっているの。私は直に見たことないんだけど、その下はひどい状態らしいわ。何度か皮膚移植を繰り返しているんだけれど、あまりにも広範囲で皮膚が足りないらしいの。今後は再生医療を検討しているらしいわ」
「包帯交換の時に見たりしないのか?」
「それが、私一度も包交したことないの。私がここに来るより随分前の話だけど、新人の看護師が包交の時に彼女の顔を見てしまって失神してしまったらしいの。それを見ていたお母さんが激怒して、それから『包交は私が自分でします』って言って聞かなかったらしいの。今でも包交はお母さんがやってるのよ」
(梨杏の意識が戻らないのは不幸なのか、それとも不幸中の幸いなのか。うら若い少女がそんなに酷い姿になって目覚めた時、果たして彼女の繊細な心は耐えられるのだろうか。何が幸せかは当の本人が決めることだろうが、それを決めること自体地獄の苦しみではないのか。意識が戻らなければそんな苦悩も感じずに済む。自分なら目覚めないことを望む)
海智はそう思った。
「お母さん、仕事が終わると毎日午後九時まで彼女に付きっ切りなの。今日は、花火大会の日に着せてあげるんだって言って浴衣を持ち込んでいたわ。本当に可哀そう。あんなことがなければ今度の花火大会にも一緒に行けたのに」