「私、村でどんなふうだった?」
「え?」
変なことを言う、と戸惑うラフィールに、マルゴはギガロッシュを越えてどこかへ連れていかれた覚えはあるが、秘密を守り、心に閉まっているうちに幼い日の記憶をなくしてしまったと打ち明け、自分が村へ行った日のことをぜひ教えてほしいとせがんだ。
なるほど、そんなものか。あの日自分が見たまま、感じたままを順に話してやると、マルゴは初めて耳にする話のように目を輝かせて聞き入った。
昨夜の夢の中でこんなことをしていましたよ、と本人に向かって聞かせているような錯覚が面白く、ラフィールも思い出せる限りのことを事細かに掘り起こして聞かせた。
耳に残るお伽噺(とぎばなし)の断片が繋がっていくように、マルゴの記憶が急速に蘇り、息を吹き返す。
毒が消えて戻る時に、真っ白なドレスの裾をちょんと摘んで村人に優雅なお辞儀を見せたことを言えば、「こうね」と真似てみせた。
「シルヴィア・ガブリエルに抱かれて馬に跨ったお姿は絵のようでしたよ」
ラフィールからそう聞かされて、マルゴは一層目を輝かせ、身が捩れるような喜びに、耳たぶまで赤くなった。
「あなたと話しているととても楽しいわ。私、明日もまだこの城にいるの。またここで会って村の話を聞かせて下さらない?」
嫌なわけがない。午後なら仕事も片付いてお暇がいただけますと答えると、マルゴはラフィールの手を取って、「きっとよ」とこぼれるような笑みを見せた。
【前回の記事を読む】マルゴには忘れられない記憶がある。それは、ガブリエルの腕に抱かれて馬を飛ばし、まだ誰にも明かされていなかった秘密の故郷へと…
次回更新は12月14日(土)、18時の予定です。
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