第二章 変動
次の日、ラフィールは仕事が片付くなり、大急ぎで昨日マルゴと会った菜園に来た。
搬入される荷物の数が、こんな日に限っていつもより多く、帳簿つけも手間取った。ラフィールは約束に遅れはしまいかと気が気ではなかったが、来てみればマルゴの姿はまだ見えず、ひとまずほっと胸を撫で下ろした。
昨晩は同じ部屋の小姓らにからかわれた。
ラフィールを置き去りにして一度は逃げ帰った連中だったが、気になってこっそり覗きに戻ってみると彼がマルゴ姫と親しげに話し込んで、別れ際に手まで握ったではないか! 興味津々の小姓たちから、何をしたのかきっちり白状しろと迫られた。
そんな昨夜のことを思い出しながら、ラフィールはマルゴが来るのを待っていた。
小姓らには冷やかされたが、悪い気はしなかった。姫君が、親しく自分を話し相手に選んでくれることは光栄なことで、知らずと彼の心も浮き立っていた。
それにしてもマルゴは来るのだろうか。ラフィールが不安に感じはじめた時、中庭の向こうからこっちに向かって歩いてくる可憐な姿が目に入った。
「よかったわ。忘れてしまわないかしらと心配していたの」
待たせておいたくせに、それはこっちの台詞(せりふ)だ。姫様とはこんなものかと呆れたが、それでもラフィールの顔は理由もなくほころぶ。
風を避けて二人は建物の陰に身を寄せたが、並んで立つと背の小さいマルゴを上から見下ろしてしまうので、ラフィールは気を遣ってその場に屈んだ。顔の横にマルゴの長い巻き毛の先端が届いて、何とも芳しく甘い香りを放った。
「昨夜おじい様から、あなたがシルヴィア・ガブリエルの弟なんだと聞いたわ」
ああ、そういうことか。舞い上がりかけた気持ちが恥ずかしい。