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「お願いします。お助け下さい!」

庵(いおり)の戸がけたたましく叩かれた。リリスがイダの食事の介添えをして、そろそろ自分も夕餉(ゆうげ)を取ろうとした頃だった。

出てみれば、灯火を提げ、使用人の小僧を一人従えた男が暗い顔をして立っていた。男は染め物問屋の番頭で、主人のご内儀(ないぎ)が酷い腹痛を起こして苦しんでいるので助けてくれないかと頼みに来たのだった。

珍しいことだ。リリスはこの庵に来てから足掛け四年にもなるが、城下の者からいまだ治療を頼まれたことはない。

城下には医者まがいの治療を施す者や産婆などがいて、領民は、彼らに頼るのが普通だが、手に負えない病人や裕福な商人などが、ご領主のお抱え医師であるイダに治療を願い出るのもよくあることだ。

【前回の記事を読む】栗色の明るい髪が肩に届いて顔立ちが美しい少年がくすりと笑ったその一瞬、マルゴ姫は胸を射抜かれた。あの微笑み……

次回更新は12月15日(日)、18時の予定です。

 

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