会った瞬間から、どうも自分を見る目が普通には思えなかったが、兄の面差しを探していたのか、と合点した。自分ではそれほど似ているとも思わないが、人の目にはそのように映るのだろうかと思う。
「僕らの村では、親や兄弟という関係があまり重要じゃないんです。みんなが身内のようなものだから、親といえば親方や師匠だし、兄弟といえばむしろ兄弟子のことかな。あの人のことを兄だと考えるようになったのは、実際に村が解放されてからのことですよ」
そうはいうものの、ラフィールは、彼が初めて弟だと人に紹介してくれた日の、どこか誇らしくてくすぐったいような喜びを今も覚えている。兄と慕う間もなく別れてしまったから、なおさらその思いはいつまでも新鮮だ。
「ねえ、ラフィール。あなた村に好きな娘はいた?」
身を屈めたマルゴが、ラフィールを悪戯っぽく覗く。
さあ、とはぐらかしたが、マルゴは端から返事などどうでもよいかのように、自信に満ちた表情だ。にっこりと笑いかけるマルゴの唇が花びらのように瑞々しい。
「好きよ、ラフィール。来月もきっと来るから、またここで会ってね」
そう言うとマルゴはラフィールの頬に唇を寄せた。ほんの一瞬の気恥ずかしい口づけをすると、弾(はじ)かれたように身を離して、
「二人だけの秘密よ」
と少女らしい、眩しい笑顔を振りまいて中庭に走り去った。
呆気(あっけ)にとられたラフィールは、マルゴの唇が触れた辺りを確かめながら、ただリラの木陰に消えていく薄桃色の後ろ姿を見送っていた。