第二章 変動
「俺はお前の兄貴を知っているよ。この城に奉公に来たばかりの子どもの頃だったが、あの人には憧れたもんだ。俺だけじゃない、みんなそうさ。姿が美しいだけじゃなく、あの人から発せられる何もかもが潔く凜としていた。ジェローム様だって、話す機会があればきっと印象が違ったはずだよ。お前があの人の弟だなんてことが、俺には癪に障るくらい羨ましいことなんだ」
こんなことを小姓が聞かせてくれるのは初めてだった。広間でジェロームから浴びせられた言葉には気が滅入ったが、小姓の慰め方は実によく効いた。
癪に障る……心の中でそれを繰り返し、にっこり笑ったラフィールは、元気よくまた机を持ち上げた。
*
マルゴはプレノワールの城を訪れていた。
祖母の加減が少しよくないとの知らせを受けて、昨日母のキエラと一緒に来てみれば、いつものごとく、ただ嫁がせた娘と孫娘、何より三歳になったばかりの孫、フレデリックの顔が見たいという口実にすぎなかった。
ゴルティエが元気旺盛だった頃は、彼は少なくとも月に二度や三度はプレノワールへカザルスのご機嫌伺いに来たものだ。
賑やかなことが好きなゴルティエは、たいていキエラやマルゴを伴ったので、娘の里帰りは今よりもずっと頻繁だった。
ところが大号令をかけていたゴルティエが死んでからは、彼女らも取り立てて用があるわけでもなければ遠出をするのも面倒と、ついついご無沙汰を決め込んでいる。
一度ちょっと寒気がすると寝込んだら、出入りの商人からそれを聞きつけたキエラが驚いて飛んできたので、以来祖母はこの手を使って娘や孫を呼び寄せるようになった。