第二章 変動

ラフィールは、小姓と一緒に物書き用の小さな机を運んでいた。小姓たちの部屋に同居しているラフィールには、まだ自分専用の机もない。

手筋がよいことを買われて帳簿係を仰せつかった彼だが、もともとは村で写本を手伝っていたこともあり、先日ふとした遊び心でご領主の奥方にヴァネッサの料理方法を記した覚え書きを写してさしあげた。

それを見て字の美しさに驚かれた奥方は、持って生まれた才能を帳簿つけだけに使うのはもったいない、暇な時間を見つけて時折はヴァネッサに伝わる他の知恵も紹介してくれぬかと、自分専用の机と銀の墨入れを下さったのだ。

その机を、小姓一人に手伝ってもらって部屋まで運び込もうとしているところだ。

外の回廊をぐるりと回るよりも、広間を突き抜けていった方が近いだろうという横着な考えで、二人の意見は一致した。

この城にある三つの広間の中で一番大きなものがここで、数日前にはマテウス河の東にいる諸侯らが一堂に会して盛大な宴会が催された場所だ。

二枚ある大扉の片方だけを開けて、ラフィールが後ろ向きになって中へ机を運び入れた。がらんとした大きな空間がひんやりとしている。宴会の折には、天蓋(てんがい)からは色とりどりの旗が吊され、厨房からはひっきりなしに料理が運び込まれていた。

着飾った諸侯や夫人たちで溢れ、賑やかだっただけに、ひっそりとした今は贅沢すぎるほどの広さに感じられる。

二人が、太く丸い柱に仕切られた内廊を縦になって移動していると、前を向いて歩いている小姓が拙(まず)いという顔をして、はたと歩みを止めた。

振り返ると、内廊に置かれた長椅子の一つに誰かがだらしなく寝そべっている。