だが、マルゴはここへ来るのがもう退屈で仕方がない。
祖母は奧にある自分の居間や中庭に座りっきりで、フレデリックが遊ぶのを目を細めて眺めているだけだし、母のキエラもそんな祖母や大叔母の傍で日がな一日お喋りをして過ごしている。
弟の相手をするふりをして母たちのお喋りを聞いていると、漏れ聞こえる大人たちの噂話は、ませたマルゴの興味をそそったが、肝心のところになると、とても小さな声で囁き合うので、話の結末がいつもマルゴにはわからない。
聞き返そうものなら、叱られるのが関の山だ。
回廊に出て誰か見知った顔でも通らないかと待っていると、稀にバルタザール・デバロックを見かけてマルゴの心はぱっと晴れやかになるが、年に一度の宴の席なら気安く話しかけてくれるバルタザールも、そういう時にはにこやかな笑顔でわざと恭(うやうや)しく会釈するだけだ。
構ってほしい気持ちは満々だが、それを気取られるのも癪で、マルゴも敢えて素っ気ないふりでやり過ごす。だから今日もマルゴは一人だ。シルヴィア・ガブリエルがいてくれたら、同じ城の中にいると思うだけで胸が躍っただろうにと思う。
マルゴには忘れられない記憶がある。
それは、シルヴィア・ガブリエルの腕に抱かれて馬を飛ばした記憶だ。
六歳を祝う日に、マルゴは花から飛び出した毒虫に刺され、毒消しの薬を求めて連れ去られるように急遽シルヴィア・ガブリエルの故郷へ向かった。
まだ誰にも明かされていなかった秘密の故郷だ。
「いいかいマルゴ、二人の秘密の道だよ」
花も毒虫も記憶に虚ろだが、ギガロッシュの岩を抜ける時、そう囁いた彼の声は今も耳に残っている。