「ラフィールと申します」

「ラフィール、邪魔をして悪かったわ。コルドレイユのマルゴよ」

貴婦人のように名乗ると、俯き加減で畏まっていた少年が驚いて顔を上げた。

「マルゴ姫! あのお小さい頃村にいらしたことのある姫様ですか? 大きく、いえ、お美しく成長されたのでわかりませんでした」

ラフィールは、シルヴィア・ガブリエルがある日突然村に連れ戻ったマルゴ姫のことならよく覚えている。あの時はみんなが面食らった。

秘密の村に領主の孫娘などを連れてくる彼の大胆さに震え上がったが、一方で豪奢(ごうしゃ)な服に身を包んだ薔薇の蕾のような姫の姿に誰もが衝撃を受けたはずだ。

あの幼子こそ村人が初めて目にした煌びやかな外の世界そのものだったのだ。

あの時の姫が、そうか、もうこんなに大きくなっていたのか……。幼かった姫の成長ぶりが解放からの年月を如実に感じさせてくれた。

「村? それはヴァネッサのことかしら?」

ラフィールが頷くとマルゴはちょっと気取って、まあ、と優雅に驚いてみせた。

「そう、ヴァネッサの者だったの。確かに私は子どもの頃あの村へ行ったわ」

今でもまだまだ子どもに違いない姫君が、ずっと昔のことを懐かしむような口ぶりなのがおかしくて、ラフィールは思わず笑みをこぼした。

またこの微笑み……普通にしていればそれほど感じないのに、微かに笑えばふっと現れるこの面差(おもざ)しが彼を思い出させる。一瞬現れて消えたその表情を求めて、マルゴは食い入るようにラフィールの顔を覗き込んだ。

なかなか難しい姫だ、笑ったことで機嫌を損ねてしまわれたか、とラフィールはマルゴの様子をそう推し量った。