第二章 変動
マルゴが十五番目の勇者に栄誉を与えていた時、向こうから賑やかな話し声が近づいてきて、彼女のすぐ傍で止まった。
屈んだマルゴのところからでは囲いが邪魔をして姿を覗けないが、どうやらその向こうの日溜(ひだ)まりで複数人が立ち話を始めたようだ。楽しげに腹を捩(よじ)ったように笑っている少年のものらしい声が気になって仕方がない。
マルゴは立ち上がると、気づかれないようにそっと彼らの姿が見える所まで回ってみた。
背中を向けている二人は、揃いの赤いお仕着せをまとった小姓たちだ。もう一人は小姓ではないが、年頃は彼らと同じくらいだろうか、栗色の明るい髪が肩に届いて顔立ちが美しい。
やわらかな表情をこちらに向けたその少年は、マルゴにはまだ気づかず、小姓たちに何か熱心に話しかけていたが、背の低い小姓がおどけた仕草でそれに応えたのを見てくすりと笑った。
その一瞬、マルゴは胸を射抜かれた。
あの微笑み……血が沸くように体がかっと熱くなった。少年の視線がふいにマルゴに届き、それを感じて背中を向けていた小姓二人も振り返った。
小姓らは菜園の中に佇んでいるマルゴを見つけると、はっと口を噤(つぐ)み、ぎこちないお辞儀をして足早に立ち去ろうとした。
「待って! 立ち聞きしていたんじゃないの。とても楽しそうだったから……」
私も話に入れてほしかったの、とまでは言えなかった。相手は十五、六の少年たちだ、きっと嫌な顔をするに決まっている。
「姫様にはお耳汚しな話でございます。どうかお許しを」
案の定、背の高い方の小姓はそう言うと、小柄な小姓の脇腹を小突いて逃げるように立ち去った。もう一人の少年だけが、ぽかんとその場に取り残されたが、マルゴにとっては好都合だ。名前を問うと、少年は窮屈そうな様子で答えた。