そうこうしている間に、二人はノエヴァとの境にある大柳を望む所まで来ていた。遠目にも見事な大柳は、その長く垂れた葉をさわさわと風になびかせて、まるで地面からむっくり飛び出した巨人の頭を後ろ向きに眺めているような姿だった。
その木の下で、イヨロンドの家来はすでに彼らが到着するのを待っていた。
「おお、伴の者も戻っておりましたわ!」
あれ助かった、とイヨロンドは手を打って喜んだ。
「ほんに遠回りをさせてしまいまして、すまぬことでございましたな。お陰様で無事ここまで辿り着けました。ここでお別れ致しますが、久々に人と話をして、心晴れる道中でございました。また ……あ、いえ、こんな老婆の話し相手などしておる暇はございませぬわな。どうぞお気をつけてお帰りなさいませ」
イヨロンドは馬の背に乗ったままではあったが、丁寧に礼を述べて、穏やかで少し寂しげな微笑みをよこした。
ジェロームがシャン・ド・リオンへ向かう道を戻るのを見送るイヨロンドは、彼がもう振り返るまいという距離まで行ってしまうと、さっとその表情をしまい込んだ。
「いったいジェローム様に何のご用がおありだったのですか?」
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次回更新は12月9日(月)、18時の予定です。
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