札つきの若い男を囲っていた話は周知の事実だ。どうせ一蓮托生の輩(やから)だろうと見ていたが、後悔を口にするイヨロンドの老けた目元に涙が滲むのがジェロームには少々憐れに思えた。

「余計なお世話かもしれませぬが、くれぐれもお父上様とお心を密にしておかれませよ。あのお方は私と違うて賢明なお人で、あのバルタザール・デバロックも忠義な男でございましょうが、だからこそ傍目(はため)には、そなた様がちょっと外にいらっしゃるのが気になってなりませぬのじゃ。

あの男、もとはといえば奴隷の子。養子とでもお考えなのか、いまだ領地も拝領しておらぬというではありませぬか! 立派なご嫡男がここにちゃんとおられるというのに、まったくカザルス様も何をお考えなのか……」

イヨロンドは、他家(たけ)のことでも見ておれぬとばかりに気を揉んで語気を強めた。まあ、そう興奮なさいますな、とジェロームは穏やかに笑ったが、自分の肩を持ってくれたようなイヨロンドの 老婆心は、まんざら不愉快なものではなかった。

そればかりか、どこか心を代弁してくれるものがあり、自分の思いが決して見当外れではないと裏打ちされた気分だ。

シャン・ド・リオンに遣わされた十五の頃ならともかく、今は自分も成長して、十分父の助けになり得るのだ。もっと自分を見てくれと思うジェロームの前で、バルタザールはいつも父の視界を遮っている。

厄介な相手と道づれになってしまったことを、はじめは迷惑に感じたのだが、評判が悪かったのは昔の話で、権力をなくしたこの女は、意外と世事に明るく聡明な女なのかもしれぬ。

過去の過ちだけで世間は悪者とばかり決めつけるが、違う目を持つことも物事には必要なのではないか……ジェロームはそんな思いを抱くようになっていた。