みんながそれぞれの生き方をしている。ラフィールはふうんと感心するばかりだ。
部屋の話が一段落すると、あらためてデュディエはラフィールに向き直り、オージェにいるファラーの様子を尋ねた。
「向こうを出たのは四か月前だけど、みんな元気で暮らしているよ」
「そうか、それはよかった。俺もいつか一度お許しをいただいてファラーを訪ねたいと思っているんだ。俺にとっては親以上の人だから、本当はお前みたいにオージェについて行きたかったが……」
ファラーは彫金の匠(たくみ)でもある。ヴァネッサの彫金の伝統は、もとから立派な工芸の域に達していたが、ファラーの感性が近年、それにさらなる光彩を与えていた。
そんなファラーのもとで五歳の頃から修行をし、その技をしっかりと受け継いだデュディエは、彼を慕う気持ちも人一倍だ。
「今ではのんびりとしたもんだよ。村にいた頃は責任が重かったんだろうね。向こうじゃそんな重荷から解放されて、へえ、こんな人だったんだって思うほど陽気だよ。母のユリアとも仲睦まじくて、ファラーもきっと凄く楽になったんだと思う」
「ほう、それを聞いて安心したよ。俺はあの二人にはぜひとも幸せでいてもらいたい。そうでなきゃ何だか俺たちのために二人が犠牲になったようで申し訳ないんだ」
デュディエが少し目を潤ませているのを見て、ラフィールの胸も熱くなった。
【前回の記事を読む】同じ村で育ったマルセルと自分が、なぜ差別されていくのか…。その理屈が納得できず複雑な思いを抱いた
次回更新は12月4日(水)、18時の予定です。
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