第一章 新生
「あたしたちを受け入れることはカザルス様がお決めになったことだから、みんな黙って従っているけど、舅にしたって息子がヴァネッサの娘と一緒になったなんて実は面白くないのよ。
『代官が真っ先によい規範を示した』とカザルス様からお褒めいただいたから、表向きはそれを自慢の道具にしているけど、うちの人が三男坊じゃなくて跡取り息子だったらまず無理ね。
あたしがどんな人間かって前に、ギガロッシュの向こうの者だっていう偏見が根強いのよ。理由がそんなところにあるんじゃどうしようもないわ!」
「ベネでも歯がたたないの?」
ベネは昔から思い切りよく物事を変えてしまう。専ら自分の都合を通すために知恵を絞るのだが、それでも自分が作業していた栽培場で交替で丸一日の休みが取れるように工夫したのは彼女だ。
簡単に諦めるなということを、自分たちはよく、「ベネみたいに」と言ったものだ。
「頑張ってはいるけど、二百年もかかって塗り込められた噂だもの、あたし一人が、雑巾が破れるほど拭いても落ちやしないわ。本当によく出てこられたものだと今になって思うわ。あたしは家族の一番びりっけつにいて、毎日毎日、姑や兄嫁の顔色ばかり見て過ごしているの。舅が夜中に使った尿瓶(しびん)の始末をしているくらいなら、マルセルと一緒にあそこで働いていたいわよ!」
つい感情的に声を張り上げてしまったベネは、はっと口に手を当てて辺りを気遣った。
「マルセルと喋っているところを見られると困るのに、僕とこうして喋っていて大丈夫なの?」
ラフィールにはそこが納得いかない。