「だって、あんたは農民じゃないわ。それどころかご領主様のご血縁だし、あのシルヴィア・ガブリエルの弟だもの。こっちの人にとって、ヴァネッサの者は一括(ひとくく)りじゃないのよ。今となれば、誰も真剣に魔物の子孫だなんて信じてやしないわ。

でもそういう者とかかわるのをどう見られるかっていう他人の目が、本当は一番怖いんだと思うわ。あんただったら、夫の両親なんて、文句を言わないどころか、もっとお近づきになれって言いそうなところよ」

複雑な思いだ。さっき一緒に大笑いしたマルセルの顔に、ベネの、ちょっと鼻にかけたような顔が重なる。

いち早く新しい暮らしに飛び込んだベネだからこそわかる道理もあるのだろうけれど、再会を喜んでくれたマルセルと自分が、なぜ棲み分けられていくのか、その理屈が納得できず、そのようなことを得意げに話すベネが意地悪く見えた。

ラフィールの気持ちをベネが敏感に察知したか、二人の間に妙に白けた空気が漂う。互いに次の言葉が継げぬまま、水飲み場の獅子の口から吐き出される水音ばかりが耳に響いた。

「ねえラフィール、あたしって醜い?」

しばらくしてぽつりと呟いたベネは、俯いたまま明らかに声の調子が先ほどまでとは違う。ふっくらした顔に黒っぽい瞳、黒い眉がくっきり白い肌に映えて、肉厚な唇がちょっと艶めかしい。

華やかな印象は受けても、醜いとは誰も思うまい。ラフィールがくすりと笑うと、ベネも少し機嫌を直した。

「村にいた時は外に出たくてたまらなかったわ。あの小さな岩の隙間(すきま)で自分の一生が終わるのかと思うと気が変になりそうだった。でもこっちへ出て、ここの暮らしに馴染むにつれてね、うまくは言えないけど、ちょっとずつ汚れていくような気がする時があるわ。今もそうよ、あんたと喋っていて、あたし……凄く嫌な奴でしょ?」

ラフィールは身ぶり手ぶりで強く否定したが、ベネは、いいのよわかってるわ、とでも言うように首を振った。