第一章 新生

ラフィールは少し躊躇(ためら)ってから、彼の背中にそっと手を置いた。

「オージェではね、退屈すると、よくマルセルと一緒に遊んだことを思い出して一人でくすくす笑ってたんだ。ズッカ婆さんの水浴びを覗きに行ったのなんか、あれは傑作だったよね、面白くって忘れられないよ。マルセルも覚えている?」

そうだった。そんなことがあった。

若い娘が水浴びをしていると騙されて、二人で茂みを這(は)って覗きにいったら、太っちょのズッカ婆さんのでかい尻を拝まされたのだった。

マルセルはぷっと噴き出した。怒った婆さんに追いかけられて、面食らって逃げては来たが、あの時の婆さんの姿ときたら、まるで乳牛(ちちうし)のようだったよなと、二人は昨日のことのように思い出して腹を抱えた。

「すまんな、久しぶりだっていうのに愚痴ばかり並べてしまったよ」

ひとしきり笑ったマルセルは、ばつが悪そうだ。

「ねえマルセル、栽培場なんかじゃなくて、どこかの親方のところで職人の修行をしていればよかったって思うの?」

ラフィールは、さっきベネが通る前に聞こうとしたことを口にした。マルセルは黙ったまま、いつものように小首を傾げてしばらく考えていたが、そうしたあとに腕を組み直して唸った。

「そうだなあ、お前にそう尋ねられると妙な気分だ。確かに俺は、デュディエやアリックスを羨ましいとは思うが、じゃあ自分がその修行をするかって聞かれれば……俺はやっぱり土を触っているのが好きだ。あいつらを見かけると、あのベネにしたってな、俺はさっきみたいなことをふっと思うけれど、仕事をしている間は楽しくってそんな余計なことを考えたりはしないな。ここの百姓よりもたくさん収穫した時には、俺は大地の申し子だ! って叫びたい気分になる」

マルセルは胸を張った。そしてしみじみとラフィールの顔を覗き込み笑った。