「お前、やっぱりいいな。お前だけまるで昔のままだ。ギガロッシュの氷室の中でずっと取っておいた蕪(かぶ)みたいだよ。ちっとも変わっていない」

「蕪?」

ラフィールは素っ頓狂(とんきょう)な声を上げて口を尖らせた。

「たとえさ。今日はお前に会えて俺、よかったよ。何だか元気が出たよ。同じ話で笑い合えるってことが今じゃ少なくなってしまったんだが、やっぱりいいもんだな」

どこか晴れやかな顔になったマルセルは、さあ、もう一仕事やってしまうかと立ち上がった。

マルセルと別れると、さっき聞いたデュディエの工房とやらを覗いてみたくなって、ラフィールは城下を訪ね歩いた。

まだここに不慣れなラフィールには、どこそこの角を曲がれと教えられてもなかなかわかりにくい。もう二度も行き止まりの袋小路に入ってしまったが、工房がどこなのか見当もつかない。そんな彼の後ろから、追いかけるような足音と女の声が届いた。

「ラフィール!」

呼ばれて振り返ると、さっき見かけたベネだが、もう赤ん坊は抱いていなかった。

「うろちょろ何やってんの! 追いかけるのも大変だったわ」

はあはあと息を切らすベネのふくよかな胸が、大きく波打っていた。

「デュディエが工房を構えてるって聞いたから探していたんだけど、さっぱりわからなくて」

「ああ、この辺りは家が入り組んでいるからね。あとで案内してあげるわ。その前にちょっと話さない?」

ベネは近くの水飲み場に目をやった。壁面の小さな獅子の口から水が絶えずちょろちょろと流れ落ちて、半円形の水盤が下でそれを受けている。いいよ、と返事をする代わりに、ラフィールはそこへ行って縁に腰を下ろし、ベネも隣に座った。