「さっきはごめんね。あんたの姿を見つけて声をかけたかったんだけど、マルセルが一緒だったから……。別に無視したんじゃないのよ、悪く思わないでね」
「そんなことはないけど、どうしてマルセルがいたら駄目なの? あんなに仲がよかったのに、何かあったのかい?」
そう問われて、ベネは言いにくそうに口ごもった。
「マルセルが、ってわけじゃないのよ。あの人、あたしのこと感じ悪いって言ってたでしょ?」
ラフィールは返事に困った。
「あたしも、あの人をわざと避けるのは心が痛むんだけど、夫の両親がね、ヴァネッサの者とあたしが喋るのを快く思わないのよ」
ベネはぷっくりとした唇をへし折った。
「舅はここで代官職を任されているんだけど、代官っていうのはね、農民から年貢を取り立てるのが役目なのよ。その代官の身内があんまり農民と親しくしない方がいいって……」
聞いているラフィールがちょっと眉をひそめたので、ベネは口を噤(つぐ)んだ。
「わかってるわよ、あんたの思ったとおりよ。体裁よく言っても、結局は農民と自分たちは同じ身分じゃないってことよ。あたしだってそんなこと納得したくないけど、仕方ないじゃない!」
言いにくい本音を吐き出したベネは、幾分気が楽になってその先を続けた。
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次回更新は12月2日(月)、18時の予定です。
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