「感傷的にそう思ってみるだけよ。心配しないで、あたしは図太いわ。家族は、まああんな調子だけど、夫は優しくしてくれるし、子どもも二人授かったの。さっき抱いていたのが夏に生まれたピエロよ。上の女の子は、あたしたち村人がこっちへ出て最初に生まれた子だからヴァネッサって名づけたの。もう三歳よ。あの子の成長が、あたしたちの村の新しい歴史ね」
ラフィールはその言葉に大きく頷いた。
「僕も早くそれに追いつかなきゃね」
「大丈夫、馴染むのなんてあっという間よ。あんたを見ていて、逆に失くさないってことの難しさを知ったわ」
「失くさない?」
その問いにベネは微笑んだままで答えなかった。
「でも、やっと誰かに舅や姑の話を聞いてもらえてすっきりしたわ。もう四年越しの便秘が治った気分よ!」
ベネのたとえは時々あまりにも生々しい。ラフィールは勘弁してよと顔をしかめた。
「そんな顔しないでよ! 本当にぴったりそんな気分なんだから。まあ、マルセルもあたしに言いたいことは山ほどあるだろうけど、あたしにはあたしの悩みがあるってことよ」
そう言って立ち上がったベネはたくましかった。
「さあ、デュディエのところに案内するわ。早くしないとピエロがおっぱい欲しがるもの」
ベネに案内されたデュディエの工房は、入り組んだ小路の突き当たり、二階屋の建物にあとから取りつけたような外階段を上がった所にあった。
【前回の記事を読む】「夫の両親がね、ヴァネッサの者とあたしが喋るのを快く思わないのよ」変わらぬ友情と変わる身分。ベネが胸に秘めた想いとは?
次回更新は12月3日(火)、18時の予定です。
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