ここが彼の生活空間なのだろうか、簡素な寝台と小さな木のテーブル、部屋の壁際には椅子が三脚並んでいる。デュディエはその椅子を二脚運び、一つをラフィールに勧めると、テーブルを挟んで自分も腰を下ろした。

窓だった場所はあとから塗り固められたのか、壁の色が少しばかり違っている。それでもなぜ室内が明るいのだろうかと首を巡らせて見上げると、天窓がぽっかり一つ開いていた。

「あれもあとからぶち抜いたみたいなんだ。まったく、えらくポンコツな建物だろ?」

デュディエは上を見上げて首をすくめた。だが、ラフィールが落胆したような表情を見せると、

「ああ、違うんだ。勘違いするなよ。俺がここに住むのはわざとそうしてるんだ」と言う。

「わざと?」

「そうなんだ。あんまり羽ぶりよく見えないようにな。ギガロッシュから出てきた俺たちだけが、何か特別な待遇を受けているように見られたんじゃ妬まれるだろ? いい顔する奴なんかいないのさ。こっちにだって俺と同じような仕事をしている親方もいるわけだしな。まあこれぐらいにおとなしくしていてちょうどいい加減なんだ」

そういう気苦労のせいか、デュディエは以前より少し痩せたようだ。しかし、目尻に細かい皺が目立つものの、男ぶりが上がった気がするのは、彼から発せられる自信のせいだろうか。

「気を遣ってるんだね」

「まあな。初めてカザルス様に仕事を披露した時にな、同席したこちらの親方や職人の顔色を見せられて嫌でもその必要を感じたよ。

あの人らに俺の仕事の良し悪しがわからないはずがないんだが、手放しで称讃して下さるカザルス様とは反対に複雑な表情だったよ。帰る時には『まさに悪魔の技だな』って冗談とも本気とも取れないようなことをこっそり言われて、あれには参ったよ。

カザルス様から庇護されているから表向きはどうってことはないが、妙な波風は立てない方がこっちのためだろ? これも知恵ってやつだな」