初めての入院生活
入院して3日目だったと思う。左手の内側に赤い発疹が2つあることに気づいた。蚊にでも食われたのかと思ったが、右手にもあった。看護師さんに言うと、表情が変わり先生が走ってきた。
ちなみに僕の主治医は、若くて筋肉質の色白の先生であり、兄の主治医は和歌山にいた小児科の先生をひと回り横に大きくした感じの先生であった。別室に移され検査の結果、水疱瘡であることがわかり、その日のうちに僕と兄は違う病院に転院になった。その病院では、約1ヶ月間入院することになった。
水疱瘡の治療を終えて大学病院に戻ると、今度は8人部屋だった。恐らく今の時代ではありえない人数だ。その部屋では僕が一番年下だった。僕は頭が丸坊主だったので、よく頭を撫でられながら、「お味噌のコマーシャルのあの男の子みたいやん!」とからかわれた。
部屋には、13歳のたっちゃん、15歳のアキ君、17歳のヤマト君と兄がおり、隣の部屋にはひとつ年下のヒロシがいた。僕たちは、検査がない日はいつも部屋でトランプやゲームをしていた。
アキ君はゲームが得意で、たっちゃんは入院が一番長くて病院の“裏事情”を何でも教えてくれた。ヤマト君はすごく大人に見え、いつもやさしくてバイクの雑誌をよく読んでいた。ヒロシとは一番仲がよくて、人気チョコのシールをたくさん持っていた。
そんなある日、検査から戻ると、部屋中がメロンの甘い匂いでいっぱいであった。昨日入院した人が、差し入れでもらったメロンを食べていたのだ。僕たちは差し入れもダメ、間食もダメ、病棟から出ることも禁止されていた。“どうしてあの子はメロンを食べていいんやろ”と考えていると、たっちゃんが病室に来た看護師さんに、
「なんで、あいつはメロン食べていいねん」
と言っていた。看護師さんは、
「病気の種類が違うから食べていいのよ。中学生ならわかるでしょ」
と話していた。たっちゃんは何か言いたそうにしていたが、何も言わなかった。すると本を読んでいたヤマト君がベッドから降りて、看護師さんと廊下に出ていった。
それから3日後、メロンを食べていた子が退院した。あとから入院した人が先に退院するのは、あまりいい気分がしなかった。
そして、事件が起きたのはその日の午後だ。