【前回の記事を読む】検査結果を聞いたらあとは退院するだけ…単純にそう考えていた。だが両親は…「難しい話やから、まずはお母さんが聞くから」

結果説明と病院の粋なはからい

兄は、漫画本を読んでいた。兄とはまだケンカしていたので、僕はTVゲームのスイッチを入れて一人でゲームを始めた。いつもならすぐに夢中になるのだが、全然楽しくなかった。“やっぱり僕も聞きたい”という思いが強くなり、リセットボタンを押して部屋から出ようとした時、

「先生にもゲーム教えてくれよ」

と言って、兄の主治医がニコニコしながら入ってきた。僕は先生を無視して出ようとしたが、先生は、「息子がどうしてもTVゲームの3面から先に行けないって言うんや。だから、3の面のクリアの仕方を先生に教えて。子どもにいいところを見せたいんや」

と、僕と兄に向かって言った。僕が兄と顔を見合わせると兄が、

「先生そんなことも知らんの。ダサいなあ。順也、一緒に教えてやろう」

と言うと、スイッチを入れた。先生は、僕と兄の間に座るとコントローラーを持ちながら、

「難しいなあ、ここのザコ敵にいつもやられるんや」

など言いながら、真剣にゲームをしていた。変な先生やなと思っていると、先生が、

「気になるよな、知りたいよな自分のことなんやから。でも、今はお父さんとお母さんに任せておけ。なっ」

と言うと、3の面を見事にクリアし、「よしっ」と小さなガッツポーズをしてみせた。先生は晩御飯が来ると、「ありがとうな、これで息子に自慢できるわ」と言って出ていった。

晩御飯を食べ終わり、配膳車に片づけにいった。他の患者のお父さんやお母さんが面会でまだ残っていた。僕たちの面会時間は終わっていたから、もう両親は帰っているだろうなと思いながら、ふと病棟入り口の方を見た。

すると、病棟から出る扉の外で母が手を振っているのが見えた。母はいつも面会が終わり帰る前には、あの扉の外から僕たちに手を振ってくれた。いつもと同じ光景であった、母の目が真っ赤であった点を除いては。

今思えば面会時間を早めたのは、病状説明後の両親の動揺を子どもに悟られないように病院側が配慮してくださったのだと思う。そして、自分たちが話を聞けない不安やイライラを受け止め解消するために、先生が僕たちのそばに来てくれたのだと、大きくなってから僕は気づいた。