【前回の記事を読む】「頑張ろうね、お母さんも頑張るから」泣きながら言った母――10歳の僕には「透析」が何かは全く分からなかったけど…
透析という治療と誕生日
退院日の少し前に僕の10歳の誕生日があった。母には、当時テレビ番組で流行っていた特撮アニメのグッズが欲しいとお願いをしていた。待ちに待った誕生日がやってきた。母は小さな箱を2つ持って病室に現れた。
「それ、誕生日のプレゼント。ねえ、そうでしょ」と母に駆け寄ると
「そうよ、ちょっと持って。重たいから」
と、箱の入った袋を僕に手渡した。僕は中身が早く見たくて、箱を開けようとすると、
「ちょっと待ちなさい、順也のは青いシールが貼ってある方やからね」
と指さしながら言った。ドキドキしながら箱を開けると、僕が頼んでいたものではなく、陶器でできた馬の置物であった。
期待していたので、少し残念な気持ちになり「頼んでいたものと違うやん」と思わず言ってしまった。母は、その置物を手に取ると、後ろのネジを何回か回した。
すると、馬が前後にゆっくり動いて音楽が流れた。知らない曲であったが、聞いたことがあるメロディーであった。その時、初めてオルゴールだと気づいた。もうひとつの箱は兄の分であり、兄は木馬のオルゴールであった。
最初は希望したものと違い、“なんでやねん”とむくれていた。しかし、母がいろんなオルゴールの種類から、これを選んだ話をうれしそうにしているのを見ていると、特撮グッズなどどうでもよくなった。これが、病院で迎えた僕の10歳の誕生日だった。