しかし、なかなか実行できない自分もいる。
とにかく、どうしたものかと思い悩む日々であった。
そんなどんよりとした曇り空のような中で突然の雷鳴。こんな知名度のない自分に弟子志願の男が現れたのだ。全く予想だにしていなかった。大げさに言えば奇跡とも言える出来事だ。
「喜之介師匠の芸と人柄です」
それが弟子入りの理由だと、あのイケメンは言う。
何か嬉しかった。いや、めっちゃ嬉しかった。いやいや、めちゃくちゃ嬉しかった。
落語家をやっていて良かったという思いが充満した。
あのイケメンが渡してくれたメモを改めてじっくり見る。
椿沢祐斗。名前と生年月日が書かれていた。
つばきさわ ゆうと。容姿と名前が合致している。アイドルグループの一員のようだ。ええと……実際にそんな名前のアイドルがいたような。
生年月日から計算すると……え? 驚いた。
今年、ちょうど三十歳。もっと若く見える。
弟子入り志願としては遅い年齢だ。普通は高校か大学を卒業した段階で入門する。最近は社会人を経験して少し年齢を重ねてからという者もいるが、かなりの少数派だ。
書かれていた携帯番号にショートメールを送ることにした。
「後日、改めてお会いしましょう。日時と場所は追って連絡します」
きょう別れ際に言ったことと同じ内容ではあったが、そんな文面を送った。
「よろしくお願いします!」至極あっさりした返事がすぐにきた。
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