【前回記事を読む】落語家でいられる「幸せ」を選んだ喜之介——亭号「花楽亭」を継いだ喜之介は、その責任と向き合う時を迎えていた。

第一章 怒 涛

落語ブログ 「あれこれ気ままな噺」

今回は、花楽亭喜之介さん以外の落語家さんについてのお話です。

落語家さんにも色んなタイプの人がいらっしゃいますが、私の「推し」の喜之介さんとは全く違うタイプの落語家さんといえば、思い浮かぶのが桂源太郎さん!

この方はテレビにもよく出ているので、皆さんご存じでしょう。陽気な人柄で、まさに落語家になる為に生まれてきたような人物。テレビでおなじみのピリ辛コメントが売りで、源太郎さんのマクラは時事放談的でさすがに面白いですね。

古典落語に現代的なフレーズを入れたり、大胆にアレンジを試みたり、人気の理由が分かります。それとは対照的なのが我らが喜之介さん。マクラは身辺雑記的な、のほほんとしたものですし、本ネタのほうも伝統的なやり方に忠実。

じゃあ、習ったままやってるだけかというと、そこは違います。喜之介さん独特の味わいがあるんですね。ここが落語の不思議なところ。だから、喜之介さんの落語にハマってしまうんです。でも、残念なことにその魅力を理解している人がまだまだ少ないんですよね。もっと評価されて良いと思うんですけど。

そんな喜之介さんと源太郎さんが仲が良いと聞きましたが、それも何か不思議ですね。大学のオチケン時代からの知り合いだそうですが、思えばお互いに全然タイプが違うからこそ心を許しあえるのかもしれませんね。

そういうことって、普通の人間関係にもありますもんね。いずれにしろ、テレビでしか見たことのない方は、源太郎さんの落語を寄席で一度聴いてみてください。きっと違った面が見れるはずですよ!

第二章 面談

一、椿沢祐斗

涼やかな目をした男が自分を凝視している。何だかドキドキする。

アイドルを思わせる容姿のこの男の名前は椿沢祐斗。名前もアイドルそのものだ。

ここは最近なぜか再び注目を集めて客が増えだしたレトロ喫茶。

その奥の隅のテーブル席で、花楽亭喜之介は弟子志願の男と対峙していた。

「とりあえず、じっくり話を聞いたらええがな」

それが友人の落語家・桂源太郎のアドバイスであった。

突然、三人もの弟子志願者がやってきて気が動転。心ここにあらず状態が続いた喜之介は源太郎に相談。その結果、最終的なまとめとして言われたのが、アドバイスでも何でもないような言葉だった。

「分かった。そうするわ」

そう言って喜之介は源太郎の言う通り、とりあえず一人ずつ会って話を聞くことにした。

当然、入門志願の順番からということで、まずは椿沢祐斗に連絡して、行きつけのこの喫茶店に呼び出した。ここなら何時間粘ってもマスターにとやかく言われることはない。じっくり話を聞ける環境だ。そう思っていたが、意外と混んでいる。だが、それもまた良しと考えた。

自分たちだけなら、マスターに聞き耳を立てられて恥ずかしい思いをするところだが、客が結構入っているので、それぞれの会話の中に自分たちの話が紛れる効果があった。

それはそれで良かったのだが……。

このイケメンを前にして緊張する自分が不思議だった。

ボーイズラブって、こんな感じ? そんなアホな。

それより、早く話を進めないと。