手元には祐斗が持参した履歴書がある。まずは、それを見る。
三十歳。
やはり、年齢はそう書いてあるが、とても三十歳には見えない。
大学生と言ってもおかしく思われないだろう。 職業は……会社員。すべてカタカナの社名が書いてあった。
「これはどういう関係のお仕事で?」
ようやく喜之介が質問らしい質問をした。
「ざっくりいうと製造業です。私はその中の人事労務マネジメント部で働いています」
「あ、そうですか」
「もっと仕事内容を詳しく言ったほうが良いですか?」
さすがにそれは断って次の質問を投げかけた。
「落語は好きですか?」
そら好きだろう。そう思いながらも聞いてみた。
「ハイ。もちろん」輝く目がさらに輝いた気がした。
「落語の経験は?」
「経験といいますと?」
「そのつまり、学生時代にオチケンに入っていたとか」
「学生の時は入ってないです」
「あ、そう」
弟子志願者はいわゆる「オチケン」落語研究会の出身者がほとんどだ。
かく言う喜之介自身も大学でオチケンに入っていた。「ほな、全く落語経験はないの?」
「いや、そういう訳では……あのう、すいません。そこに書いてあるんですけど」
祐斗が履歴書を指さす。よく見てなかった。改めて目を通す。
社会人の落語サークルに所属していて……あらら、結構な実績の持ち主だ。
⚫関西社会人落語選手権・決勝進出。
⚫北摂津らくごまつり社会人の部・準優勝。
⚫社内かくし芸大会・チャンピオン。
自分の会社内でおこなわれた大会のことまで書いてある。
それは知らんがな……と思いつつ、アマチュア落語の世界ではそれ相応の実力者であることは分かった。
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