【前回記事を読む】落語家さんは見た目にインパクトがある人が得? 観客の心をつかむことができる大事な要素と喜之介さんの「お困りさんフェイス」

第一章 怒 涛

四、めちゃめちゃ悩んでしまうやないかい!

源太郎には既に五人の弟子がいた。

だから、自分が弟子を取るにあたって源太郎に相談しようと喜之介は思ったのだ。

真剣に話をしているのに、源太郎は笑って取り合わないので、さすがの喜之介も少しイラっときていた。

「克ちゃん、考えてみたら、こんなおもろい話はないで」源太郎が言う。

「おもろい話?」

「そうや。三日連続で弟子入り志願者が来たんやろ? これは史上初ちゃうかな。江戸時代からの歴史がある落語界で史上初! すごいで。よう知らんけど」

「確かに、そんな話は聞いたことないわ。そやから、悩んでるんやないか」

「何も悩む必要ないがな。こんなおもろい話、普通に生活しててもなかなかないで。俺なんかいつもマクラで話すネタを考えるのに苦労してるもん。その点、克ちゃんが羨ましいわ。この話だけで、当分商売できるで」

源太郎は笑いながら言う。

「それは他人事やから、そんなことが言えるんやろ」喜之介が少し気色ばむ。

「そんなことないって。俺は真剣に言うてるんやで!」

喜之介の機嫌が随分斜めになった様子を見て、源太郎が言う。

「俺の経験からいうと……」

「そう、それを聞きたいねん」

「俺の経験からいうと……」

「どうやねん? 弟子は取ったほうがええんか?」

「俺の経験からいうと……」

「やっぱり、弟子は取るべきか?」

「やかましいな!」

相談の答えを早く聞こうと焦る喜之介に対して、源太郎は落ち着かせようとする。

「相談に来たんやったら、ちゃんと話を聞けよ」

「すまん、すまん。初めてのことで、心が動揺してて……」

「克ちゃんも、来年、入門三十年やろ?」

「そうや」分かり切ったことだ。

ひと足先に入門三十周年を迎えた源太郎は派手なイベントを開催していた。

三日連続の独演会。一日二席ずつですべてネタ下ろし。毎日豪華ゲストあり。

いやいや、すごい。マスコミでも大きく取り上げられ、そのうちの一日は深夜ではあるが、テレビ放送もされた。