第1章 変化の時代に変革を成功に導く公式とは?
この30年の間に製造業では何が起こっていたのか
日本の製造業の輸出の実態については、MERCを新宅教授と共同で立ち上げた藤本隆宏早稲田大学教授の作成した次ページの表が興味深い。
日本の工業製品の貿易収支を見ると、2008年のリーマンショックから2011年の東日本大震災に続く時期と2020年のパンデミックの時期には低迷したが、それ以外の輸出金額は一貫して成長している。2022年には、パンデミック期の反動か円安の影響か輸出金額は大きく伸びて史上最高の90兆円を超え、30兆円近い貿易黒字を生み、日本の経常収支を下支えしている。
藤本教授によれば、日本の製造業就労者数は1990年からの30年で1500万人から1000万人弱まで減少しているという。一方、少し計算してみると、製造業の付加価値生産性はこの30年で約2倍に向上しているとも指摘する。日本の製造業は失われた30年の中でも善戦してきたといえるのではないだろうか。
この間、中国の製造業は安い賃金を武器に躍進してきた。一方、中国の賃金の上昇幅は大きく、かつて日本の20分の1といわれた賃金格差はすでに2分の1、3分の1にまで縮まっているという。
この程度の格差であるなら、改善の積み重ねで生産性を上げれば、すぐに製品の価格差は逆転できると藤本教授は指摘する。生産性を上げるには、設計情報のよい流れを実現することが重要であり、そこではデジタルも武器になるだろう。