では製造業の経営上の課題は何かと新宅教授に問えば、販売機会のロスとデジタル化に各社がどう取り組むかだと指摘する。
グローバル化が進展する中で、製造業はQ(Quality:品質)、C(Cost:コスト)、D(Delivery:納期)のうち、コストを重視しすぎたのではないかという。サプライチェーンがグローバルに複雑化し、流通に支障をきたし、販売機会を失ってしまうのである。
デジタル化に関しては、日本は擦り合わせ型ものづくりに強みを持つが、部門間には見えない壁があるのが課題である。その「部門間の風通し」をデジタルで良くすることが、全社の業務改善を促すことになるのではないかと指摘する。
デジタル化が遅れているといわれる中ですら生産性を上げている製造業であれば、デジタルを効果的に活用すれば、さらに大きな成果を手に入れることが可能なはずだ。
しかし、日本の製造業の強みとされる、現地現物を主体とした擦り合わせや複雑な紙図面をも読み解く現場力があまりに成功しすぎ、そのアナログなプロセスが「部門間の風通し」を悪くしている。多くの企業で3D設計をしているにもかかわらず、図面が後工程に流れているという実態が風通しの悪さを物語っている。
この設計の3D情報が全社に流れる仕組みを平時に構築しておけば、生産性向上に大きく寄与するだろう。情報の共有が即座に行われて納期短縮に貢献するとともに、後工程の必要とする情報が自動的に生成され、ムダを排除することができるからである。
これは同時に有事にも有効である。製造ノウハウを3Dで蓄積し再現できるようにしておくことで、サプライチェーンさえ維持できれば、有事には別の製造拠点を即座に立ち上げることができるからである。本書では、この3D情報を利用して企業のプロセス変革をいかにデジタルで実現できるか、つまり製造業のDXをテーマとする。