はじめに

1993年に『リエンジニアリング革命』という本が出版され、BPR(Business Process Re-engineering)という言葉が一世を風靡した。

全社レベルで業務プロセスを可視化し、部門間で重複するムダな業務、ボトルネックとなっている業務を見つけ、組織全体の業務プロセスを最適化せよという、現在のDX(Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション)に通じることが主張されていた。

人の世代は30年で変わっていき、失敗の記憶はその間に風化する。だから、バブルは30年ごとに繰り返すという。まさにDXにおいても、歴史は繰り返している。

BPRに関しては、分かりやすいエピソードを覚えている。決裁処理をするのに書類が組織長を回っていたが、その書類が各決裁者のところで2、3日滞留するので、全部で10日以上かかっていた。

書類をその担当者が持って回り、各決裁者のところまで行ってサインしてもらうようにしたらすべてが1日で片付くようになり、納期を10分の1に短縮したというような話であった。

現代の我々にはデジタルという武器がある。組織間の情報共有は瞬時に可能である。30年前のBPRと同じようにプロセスのムダを見つけて最適なプロセスを構築できれば、30年前とは違ってデジタルで圧倒的な生産性の革新ができる。今、我々はこのことをDXと呼ぶ。

国際情勢、気候変動、感染症と企業を取り巻く環境は目まぐるしく変わっている。変化をよく見ると、日本の製造業に極めて有利な状況が生まれていることに気付く。

1989年のベルリンの壁崩壊で東西冷戦は終結し、中国が安価な労働力で世界の工場となった。この構造が今、米中対立や2022年のロシアによるウクライナ侵攻、2023年のイスラエルとパレスチナの紛争で反転しようとしている。