リリスもシルヴィア・ガブリエルの命を見つめ続けた者の一人だ。彼は、生まれつき髪にも肌にも色素がなく真っ白な異形(いぎょう)だが、ヴァネッサの村に伝わる医療のすべてを受け継いだ有能な男だ。

六歳で薬草の知識を仕込まれはじめた頃、シルヴィア・ガブリエルが仮死で生まれて蘇生(そせい)した。それ以後ずっと施療院で彼の面倒を見てきたから、誰よりも彼のことを知っている。

リリスは村が解放されるやこの庵に居を移して、イダとともに彼の命を繋ぎ、その燃え尽きるのをここで一緒に見送った。今ではイダとリリスは、それぞれの心に深くかかわった思いと痛みを共有する、親子のような間柄になっている。

四か月前にオージェから戻ったラフィールは、ヴァネッサの村人の居留地であるラトリスに向かう前、領主カザルスに挨拶するために一度この城に立ち寄っている。

その際、城門で待ち受けてくれたリリスとは三年ぶりの再会を真っ先に果たしているのだが、シルヴィア・ガブリエルの恩人であるイダに会うのは今日が初めてだ。

オージェにいるファラーからも、よろしく礼を申し上げてくれと頼まれているのだが、さっきからバルタザールが、

「いいか、びっくりするなよ。物凄い形相の爺(じじい)だからな」

と脅かしてくるので、ラフィールは彼のあとに従いつつもすっかり怖じ気づいていた。

庵の入口には小さなアーチがあり、それを潜(くぐ)った前庭には様々な種類の薬草が驚くほど整然と植えられていた。