第一章 新生

ひしゃげた鼻、かつて禿げた頭の周りを逆立つように取り巻いていた髪は、今ではすっかり白くなり、禿げ山の裾野にたなびく雲のように貼り付いている。それほど奇異なわけでもない。

見慣れぬ異邦人の顔かたちとはいえ、一つ目の怪物にでも遭うのかと身構えていたラフィールにはちょっと肩すかしの感があった。

バルタザールに続いて、ぷんと薬草の香り立つ部屋に入りはしたが、遠慮して戸口の前に控えていたのをリリスがにこやかに迎え入れて抱きしめた。

「久しぶりだな。ラトリスはどうだった?」

「うん、僕らの村が何でこんな所に移っているんだろうって、変な感じだった」

「だろ?」

思惑どおりのラフィールの反応に、リリスの淡紅色の目が微笑んだ。全身が真っ白なリリスは、虹彩(こうさい)にも色素がないので、血管が透けてうっすら赤い目をしているように見える。

リリスはこっちへ来いと、妙に恥ずかしそうに畏まっているラフィールを引っ張ってくると、イダの前に押し出した。

「イダ様、こいつが誰だかわかりますか?」

バルタザールに、言うなよ、と目くばせて、リリスが茶目(ちゃめ)っ気たっぷりに笑っている。イダはちょっと顔を持ち上げてラフィールを一瞥(いちべつ)したが、

「見かけん顔じゃな」と首を振った。

「よおくご覧下さいよ。誰かにちょっとだけ似ているとは思われませんか?」

リリスは、やけに嬉しそうにもったいぶった口ぶりだ。

バルタザールがラフィールを突いて、にっこりしてみろよと言うが、そう言われれば一層表情が固くなる。老人は今一度ラフィールの顔を覗いたが、なおも首を傾(かし)げる。

「よおくご覧になったが、わからんのお。誰じゃなお前さんは?」