ラフィールがもじもじと初対面の挨拶をしようとすると、手柄の横取りをするように、リリスが代わりに答えた。

「ラフィール、オージェについて行ったラフィールですよ!」

「オージェ! ああ、いつもお前が言うておったユリア様のお子か?」

「ええ、あいつの血を分けた弟のラフィールですよ!」

ああそうか……と頷いてイダがしげしげとラフィールを見つめる。

皺に埋もれた黒炭のような小さな瞳は片方が少し白く濁っている。その瞳がしばらくじっと自分に注がれ、そのうちふっとその焦点が自分を通り越していったのを、ラフィールは感じた。

「あれの……弟か」

ため息一つつくと、イダの体が少し小さく萎(しぼ)んだように見えた。

「夏が来る前にこちらへ連れて帰ったのだが、ちょうどイダ殿が腹を壊したとかで唸っている時でな、だから悪いとは思ったんだが、挨拶もさせずにラトリスに行かせたんだ。

あのままくたばっていたら会わせることも叶わなかったが、イダ殿がしぶとくてよかったよ」

白い歯を見せて笑うバルタザールを見上げて、イダが、ふん、と鼻を鳴らす。

「いけ好かん奴じゃな。お前がそうやって待ち構えておっては、忌々(いまいま)しゅうて、儂は死んでも死にきれぬわ!」

この喧嘩腰の応酬は親しい証(あかし)なのか。笑ってはいけないと思ったが、二人の歯に衣(きぬ)着せぬやり取りに、ついラフィールの口元から笑みがこぼれる。

それに一瞬はっと顔を向けたイダだったが、目を細めてラフィールを眺めたあとはリリスの顔を探し、そちらに向かって問いかけた。

「この子はヴァネッサでは何をしとったんじゃ? あの村じゃみんな小さい頃から何か仕込まれておるんじゃろ?」

「こいつは早いうちからなかなか手筋(てすじ)がよくて、図書室で写本作りをしていたんですよ」