第一章 新生

「あ、あの、兄が大変お世話になりました。ファラーも直にお礼を言うことが叶いませんが、とても感謝しています。それを伝えてくれと……」

やっぱりちょっとおっかない。じろりと見上げるイダの顔をラフィールはあまりまともに見返すことができなかった。

まだ他に引き合わす連中がいるからと、バルタザールはラフィールを連れて早々に退散した。リリスも先ほど広げていた薬草を隣の部屋で煎じはじめたので、一人残されたイダは背もたれ椅子に沈んで物思いに耽(ふけ)った。

そうか、さっきの少年がシルヴィア・ガブリエルの弟か……。あの若者に出会えたことは、自分の長い一生のうちでもまたとない喜びだったとイダは振り返る。

一緒にいた頃は、よくここで薬草を干したり束ねたりするのを手伝ってくれたものだ。あれからもう何年も経ってしまったが、いまだ薬棚の奥には、彼が束ねたものが残っている。

同じように見えても、束ねた紐の結び目でイダにはそれがわかるのだ。その結び目をほどいて薬草を使うたびに、一つずつ彼の名残が消えていくようで、それがどうにも辛く寂しい。

結び目に触れると、彼のしなやかな手がそこにあるのを感じ、二人で暮らした日々の記憶がまざまざと蘇る。あれはほんの一時(ひととき)でも、倅とともに暮らしているような幸福な日々だった。

煎じ薬の材料を取りに戻ったリリスが戸棚の中をごそごそと探している。また一つ、減っていくのだろうか……。

「なあ、リリスよ。さっきのあの弟は、あいつとどれだけ年が違うんじゃ?」

「確か八つ、いや大方九つかな? 村が解放された時にはまだ十二だったのに、あの子ももう十六か……早いもんですね」