第一章 急激な進行 首から下が動かない

【18日】

人工呼吸器を外し、酸素吹き流しを始める

口の周りに常に酸素が流され、酸素を吸いやすくしている

言語療法士に従って喉の筋力強化訓練が始まる。舌を突き出したり、引っ込めたり。舌を上下、左右に行ったり来たり。この訓練は気合が入った。これがうまくいけば、口から物が食べられるようになるのだ。

それに、せん妄で天井をパソコンに見立てて、口パクで文字を天井に打ち出していた私は毎日訓練をしていたようなものだ。力強いと褒められたのも不思議ではないが、それを見ていた看護師さんたちは不気味だったと思う。

この日、リハビリでベッドに座り足を床につけた。ただ座れただけだが、順調に進んでいる気がした。

グレープゼリーをスプーンで食べさせてもらい、おいしくてあっという間に完食したら、飲み込むのが早いと言われた。続いてとろみのついた緑色の水をスプーンで飲み込んだ。飲み込む時の喉の動きがまだ弱いが、気管支に入ることなく胃に入った。この訓練では水のほうが難しくて、重要だそうだ。普段何気なく飲んでいた水も、喉の筋力が弱まると命にかかわる。

この日は嬉しい進歩がもう一つ。尿管を抜いて、おむつに直接排尿できるかチェックした。だいぶ時間がかかったが、できた時の爽快感は何とも言えない。着々と退院が近づいている気がして、ワクワクしたものだ。

ピースサインしかできなかった手の指は、1本ずつ折ってスムーズに5まで数えることができるようになったが、足のほうは思うように動いてくれなかった。車椅子に乗っているのは平気だが、ベッドから乗り移るのが難しい。

この時点で、私が歩けるようになると思っている人はいなかっただろう。

【20日】

動くとすぐに痰で苦しくなり、なかなか体調が安定しなかった。

【21日】

ベッドの手すりを掴めるまで腕が上がった。両サイドの手すりを持って、自分の腰をほんの少し浮かすことができた。リハビリではなく、自分でやりたかったことの一つだ。おむつを交換してもらうのに、これができたら介護士さんもやりやすいだろうと思った。

ベッドの背もたれを起こすと、体が足元に下がってしまう。これを戻すのに、2人がかりでやってもらわなければならない。ベッドの柵の両サイドを持って、自分で少しずつ体を上にずらすことや寝返りもできるようなった。手が動かない時は、床ずれ防止に看護師さんが2時間ごとに、枕を挟んで体の向きを変えてくれていたが、それも必要なくなった。

この日、車椅子に座ったままの状態で、娘が私の髪を短く切ってくれた。入院がわかっていれば切っておいたのだが、緊急入院では仕方がない。寝たままで長い髪がうっとうしく、洗ってもらうのも心苦しい。車椅子に乗ったまま廊下の端に行き、シートの上で切ってもらった。1人、2人と見物人が集まってきた。

「いくらですか?」

この質問には笑ってしまった。私のように、髪をカットしてもらいたい人はいるようだ。思ったより時間がかかったが、50分も座っていられたことに驚かれた。さすがに疲れて自力ではベッドに戻れなくなった。