第一章 急激な進行 首から下が動かない
【11日】
この日の午後、器官を切開し人工呼吸器を装着した。私は寝ていて気がついたら、喉からチューブが出ていたという状況。喉の痛みから解放されたから痛み止めは必要なくなった。1週間後にスピーチカニューレ(器官を切開していても発声できるパイプ状の医療器具)を入れて話せるようになれば、今後せん妄もなくなるはずだ。せん妄は重症患者に時折見られる幻覚だが、私の場合結構長い間現実と幻覚の狭間に漂い続けた。入院以来悩まされていた目ヤニも改善され、視界がすっきりしてきた。
【12日】
片手でピースサインもできたし、ゆっくりではあるが娘が持ってきたタブレット型パソコンにタイピングできるようになった。
その一方でせん妄は続いていて、点滴を拒否したりした。この頃は幻覚と現実の境目がわからなくて、困惑の中でもがいていた。
【13日】
前日の夜の幻覚が怖かったらしく、「殺される、やめて、死んでもいい」と書きなぐっていた。
【14日】
血圧126/76
血管超音波検査
口の中に管がなくなったので、声が漏れるようになった。同じ口パクでも、だいぶ理解しやすくなったようだった。握力は8㎏になり、手で自分の鼻を触れるまでに腕が上がるようになる。握力は6歳の握力と同じくらいだが、何とか自分で顔が拭けるようになったことはかなりの進歩だ。担当医の説明では血漿交換治療を始めてから、効果が出るのは2週間後ということだったがこの日で17日目だ。
そういえば孫が生まれて両手が胸の前で合わさったと、その成長を喜んだっけ。今の私の体は、赤ちゃんの成長に等しい。