「すぐに服着て、商品を荷造りしたら列車で行きますよって。ねえ、行かしてくれますね? ええと、支配人さん、お分かりでしょう、私は強情っぱりやないし仕事も大好きです。出張はえらいですけど出張なしには生きてけません。

どちらへ行かはりますの、支配人さん? 店ですか? そうですか? なんもかも事実の通りに報告してくれはりますか? ちょっとの間仕事にならんときはありまっけど、そないなときこそこれまでの実績を思い出して、厄介ごとさえ片付いたら前にも増して仕事に精出すと思ってくれはってもええでしょう。

社長には山ほど義理がありますし、支配人さんもそれはご存知ですやんか。両親と妹も気がかりです。今は難儀なことになってますけど、どないかしますわ。これ以上しんどい目にはあわさんとってください。店で私の力になったってください!

セールスマンは嫌われるもんです、そら分かってます。大金稼いで優雅な暮らしや思われてますよってね。特段のキッカケもないからこんな先入観をじっくり考え直してももらえんし。せやけどですね、支配人さんは他の連中よりも状況がよう見えてはるんですよ、それどころかここだけの話、社長よりもね。社長は企業家のさがで判断をゆがめがちですよって。

セールスマンは年がら年中店を出とるせいで陰口とか不意のトラブルとか身に覚えのない文句の犠牲になりがちなことも支配人さんはようお分かりです。かと言うて自衛は無理です。自分の耳にはまず入ってきませんし、出張を終えてバタンキューで家に帰ってやっとこさ、原因も分からん悪い結果がわが身に起きてんのに気ぃつくくらいですから。

後生です支配人さん、行かはる前になんぞ一言、私の言うこともちょっとは筋が通ってると思えるようなことを言うたってください!」