【前回記事を読む】【大阪弁『変身』】 父親も母親も働かれへん。ほな稼ぐんは妹の役目か? 歳は17まだまだ子どもや。音楽学校に入れたろ思うてたのに…

大阪弁で読む『変身』

向かいに建っとる病院も、前は目ざわりでしゃあなかったのにもはやいっこも見えへん。もしグレゴールが、自分は静かなりとも間違いなく都会と言えるシャルロッテ通りに住んでるとちゃんと分かっとらなんだら、自分は窓から灰色の空と灰色の大地が混じり合うて見分けのつかへん荒野を眺めとると信じこんでしまいかねん。

妹はよう気のつくたちで、椅子が窓のそばにあんのを二回見てからは部屋をきれいにした後は毎回椅子を元通り窓辺に押しやって、のみならず二重窓の内側を開けといたるようになった。

妹と話をして、自分のためにせんならん全てのことに感謝を伝えることができさえすれば、グレゴールも妹の献身をこない重荷に感じることはなかったやろう。ここがまさに悩みのタネやった。

妹はなるほどバツの悪い思いをできるだけ悟らせまいとはしとったし、長い時間が経つにつれて当然それがうまくいくようにはなっとったけど、グレゴールも時が経って全てをより正確に見抜いた。

妹が足を踏み入れるだけでグレゴールはびくついた。なんせ妹は足を踏み入れるが早いか、日頃は誰もグレゴールの部屋を見んですむよう細心の注意を払うとったはずがドアを閉める暇さえ惜しんで、窒息死でもすんのかという勢いで窓に突進してアタフタと窓を全開にし、なんぼ寒かろうがしばし窓際にとどまって深々と息を吸いこむありさま。