このドッタンバッタンでグレゴールは日に二回びくつくはめになった。その間ずっとソファの下でガタガタ震えてはおるもののグレゴールも骨身にしみて分かってはおった。グレゴールがおる部屋に窓も開けんとおられるもんなら妹もこないな仕打ちはせんといてくれるに決まっとる、と。
グレゴールが変身してから一か月以上経って、グレゴールの姿を見たくらいではどうとも思わんようになったあるとき、妹はいつもよりちょっと早う来てグレゴールに出くわした。グレゴールは身動きひとつせんと、身の毛もよだつ姿をさらす棒立ちで窓の外を眺めとった。
自分が邪魔んなって窓をすぐに開けられへんから妹も入るに入れんということは、グレゴールとしても予想外ではないはずやった。ところが妹は入って来んばかりか後ろに飛びのいて、ごていねいにドアまで閉めよった。
事情を知らんもんが見たら、グレゴールが妹を待ち伏せて食いつこうとしたとでも即断しかねん。グレゴールは当然すぐソファの下に身を隠したけど妹がまた来てくれんのを昼まで待つはめになったし、妹もいつもと比べてずいぶんと落ち着かん様子やった。
そないなわけでグレゴールは思い知った。妹からしたらグレゴールの姿を目の当たりにすんのは未だに耐えられへんし今後も耐えられへんままに違いない、ソファから体のわずかな一部が飛び出して見えただけでも逃げ出したいんを妹は死ぬ思いでこらえんならんのやと。
妹がこんな情景を見んですむようにと、ある日グレゴールは背中にシーツを乗っけて──四時間がかりで──ソファにシーツをかぶせ、全身がすっぽり隠れて妹がかがみこんでも自分の姿が見えへんように整えた。
妹はこないなシーツいらんと思うんであれば取っ払うやろう。どう考えてもグレゴールがまるっきりの孤独を楽しむためにやっとるわけちゃうんやから。