リネッタ! そうだ、彼女が一番美しい。縮れた金色の髪をいつも後ろで一つに束ねている看護師の彼女は、すらりとした長身で、化粧っけはないが顔立ちそのものに品がある。面長な輪郭に陶器のような肌、少しとろんとしたような瞳がまるで神の啓示を受けてトランス状態にある聖女のようだ。

話しかけるには臆するタイプだが、媚(こ)びて愛嬌(あいきょう)のある顔よりもあの凜(りん)とした雰囲気が好きだ。

リネッタを想像してみよう。彼女があの束ねた髪をほどいて、首の後ろから手櫛(てぐし)でかきあげるところを。

首をふれ、笑え、髪をなびかせてくれ。

ベッドに仰向いたユーリは、爪を噛み、脳裡にその姿を呼び起こす。するとそのうち、なびいていた髪はびっしょりと濡れ、あたりに水しぶきを撒き散らしはじめた。リネッタは両手で顔を覆い、顎を突きあげると、その手で髪を撫でおろした。しかし、水面に浮かびあがった人魚姫のように現れた顔は……カーシャだ。やっぱり、カーシャじゃないか。

ユーリはその幻影を追い払うようにベッドの上に起きあがった。

―やめろ、カーシャ。俺を惑わさないでくれ!

そう心で叫んだら、不意にまた、塔を見あげて睨むアニタの目が思い出された。あの目、あれは俺を非難する目だ。俺の心の奥を見透かして、俺自身でさえまだ認めていないものをほじくり出して……あの黒い椋鳥(むくどり)は鋭いくちばしで俺の心臓を突(つつ)いているんだ。

―俺が何をしたっていうんだ。俺はまだ何もしちゃいないじゃないか! そう、まだ……。

【前回の記事を読む】うっとりと彼の世界に引きこまれていく。―不意に甘美な幻影が脳裡をかすめた。あの魅力的な菫色の視線がまっすぐ…

次回更新は11月20日(水)、21時の予定です。

 

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