村長夫人はハンカチを鼻に押し当てて、別れ際にアニタに詫びた。

「向こうはそうでも、こっちがわかっていれば十分よ。会いたいからいくんだもの、余計な気は遣わなくていいわ」

アニタは、また来週、と村長夫人を抱きしめた。

「あなたも血圧には気をつけてね。忘れずにちゃんとお薬飲むのよ」

村長夫人の言葉に、大丈夫よとアニタが笑い、二人は別れた。

ユーリは眠れぬ夜をすごしていた。暗い部屋のベッドに横たわると、昼間見たあの幻影が甦る。

白昼夢のように見せられたものは、自分の心の暗部を投影したものだったのだろうか。だとすれば、自分はあのカーシャの姿に何を求めようとしているのだろうか。ユーリは途絶えた幻影の先を考える。

あの輝く水の玉を、きっと俺はカーシャの手に吸い付くようにして飲むだろう。そうして俺は、その後どうしたのだろうか? そうだ、きっと、あの喉に……。

カーシャはどうか。泣き叫ぶだろうか? いいや、カーシャはくすぐったいと笑うだろう、身をよじらせながら。俺はそんなカーシャの白い肩を剝く。背中から錫の色をした髪の中に指を潜らせて、そして、そして俺の口はあの喉を這いあがり、カーシャの唇をこじ開けるだろう。赤くやわらかな唇。俺は自分の口にふくんだその光ほとばしる水をカーシャの口に注いだだろう。

―ああ、カーシャ。

俺はなぜこんなことを考えるのか。少年が好き?

ちがう! 誓って、そんなはずはない。

ユーリは意識して、村に住む若い女たちの顔を思い浮かべようとした。数人の顔が薄く現れると、彼はさらに気を集中させてそれぞれの顔や姿を念入りに思い起こした。