第一章 夫の脱サラと妻に起こった不思議なこと
姉からの電話
そんなある日のこと。三日後の手術入院を待っていると、自宅の電話に全くもって予期(よき)せぬ人から電話が入った。その声は大阪 (おおさか)在住(ざいじゅう)の姉の声だった。
姉の声を聞くのは十年振(ぶ)りくらいになるだろうか。姉は子供の頃から何となく胡散臭(うさんくさ)く、こう言っては何だが、どことなく犯罪者の臭(にお)いがする。
そんな姉が私は子供の頃から苦手だった。
実際、姉は十代ですでに金銭問題(きんせんもんだい)で友人や身内に迷惑(めいわく)を掛け、親が肩代(かたが)わりをすることも何度か有った。そんな姉なので、友人や親類縁者(しんるいえんじゃ)からも警戒され距離(きょり)を置かれる存在だった。
そのような理由から、私は姉からの電話を強く警戒した。また何か良からぬことを企(たくら)んでいるのではないかと猜疑心(さいぎしん)に満(み)ちた状態で電話に出た。
それにもかかわらず、何故(なぜ)か私はその日を切っ掛けに姉を簡単(かんたん)に信用し、その結果、家族を巻(ま)き込みながらあれよあれよと奈落(ならく)の底に落ちていくのだった。