第一章 夫の脱サラと妻に起こった不思議なこと
お気軽夫婦(きがるふうふ)の発車 (はっしゃ)オーライ
夫、三十九歳。妻、三十七歳。
新たな人生の幕開(まくあ)けなので、ここの部分は是非(ぜひ)とも緊張感 (きんちょうかん)を含(ふく)ませて書きたいところだが、実際はやっぱりなるようになると考えてしまう、お気軽な似た者夫婦の発車オーライだった。
さてさて脱(だつ)サラ父さん運転の家賃(やちん)が安い以外は良いとこ無しの激安 (げきやす)オンボロ車の行く手は如何(いか)に。
ところがどうしたことか、何故(なぜ)か、意外(いがい)にも、不思議(ふしぎ)なことに、脱サラ父さん運転の激安オンボロ車の調子(ちょうし)は好調 (こうちょう)で、早くも繁盛 (はんじょう)らしき兆(きざ)しが見えてきた。
とはいえ、開店後の半年程は客は疎(まば)らで、こんな怖(こわ)い話まで耳に入ってきていた。
「この店舗は昔かい長続きせん店舗で、いろんな人がいろんな商売すっけんどよ、全部(ぜんぶ)ダメどー。早ぇ人は数ケ月でやめた人もおったど。今度んあんた達の商売は何ケ月もつか賭(か)けちょる人もおるぐらいやがね。頑張(がんば)んないよー」。
励(はげ)ましの言葉か? 開店後の半年間ほどは、毎月必ずやってくる支払いのお金を工面(くめん)できず、遂に当時高校生だった娘に借金(しゃっきん)の申し入れをし、利子免除(りしめんじょ)でお金を借りなければならないところまでいったことがある。